「『死なせない』社会」
林 隆司
 6月講座の質疑応答の際、松岡前農水大臣の自殺に関する話題が出たが、近年わが国においては自殺者の増加が深刻な社会問題となっている。では、自殺者を予防するにはどの様な施策をとるべきか考えてみたい。

 まずわが国における自殺の現状であるが、警察庁の資料によれば平成10年に年間の自殺者が3万人を超えてから、9年連続で3万人を越えている、また、人口10万人あたりに対する自殺者数(自殺死亡率)は24.2人であり、この数字はG8諸国においてはロシアの34.3人に次ぐ第2位であり、3位のフランスの17.8人との差は6ポイント以上もある。(2005年統計 WHOホームページより)以上の事からわが国の自殺者数の水準が高い事がお分かりいただけると思う。

 では、なぜそれだけの人が自殺するかという動機を、遺書を元に分析したところによると、1位は健康問題であり以下、経済生活問題、家庭問題、勤務問題と続く。(警察庁資料より)しかし、これらは自殺行動に至ったきっかけに過ぎない。精神科医の飛鳥井望氏が生命的危険性の高い企図手段をもちいた自殺失敗者を調査したところ75%の人に精神障害が認められ、そのうち約半数の46%の人がうつ病であった。また、平成14年度厚生労働科学特別研究事業による調査によるとうつ病などを経験した人の75%が医療機関への受診をしていないという。この事から考えると、自殺してしまった人の多くはうつ病をはじめとする何らかの精神疾患を患っており、且つ医療機関を受診することなく、不幸にも自殺に至ったと考えられる。

 上記の精神疾患の内、半数近くを占めるうつ病に限って言えば、うつ病は病気であり治療をすれば必ず治るといわれる、つまり、うつ病の早期発見や治療を行うことは自殺の予防につながると考えられる。最近わが国では、30台のうつ病の増加と中高生、また高齢者(特に独居者)の自殺が問題となっている。これらの対策として職場や学校、地域での健康診断の際、従来の身体に対する診断に加えて問診などによる精神面での健康診断の実施を提案したい。これにより、うつ病の早期発見が実現し、自覚のない人も、病気であると自覚し、医療機関を適切に受診し治療することが出来、自殺予防につながると考えられる。

 私はかつて、うつ病に羅看した事があり、その際実行行為には至らなかったものの、自殺を企図し、日記に遺書めいたものを書いたことがあった。そのとき私は「不幸」な気分であり、その「不幸」という「不本意」な状態を解消するために「不本意」ながらも「死」を選ぼうとした。いわば「不本意のスパイラル」の結果が自殺である。当人の自殺後残された者には「後悔」と言う「不幸」が生まれ、最悪の場合「後追い自殺」という「不幸」を生みかねない、当に「不幸のスパイラル」である。このような状況を打破するためにも、政府をはじめ、国民をあげて努力しなければならない。

参考文献
※ 内閣府 自殺対策推進室 リーフレット 「生きやすい社会の実現を目指して」