| 麻生外務大臣の講義をうかがって 松 本 卓 久 |
| ■「不安定の弧」を解消する日本の戦略
麻生外務大臣は講義で、これから日本がとるべき世界戦略について言及されました。日本の豊富な金融資産と高度な技術を有効に活用し旧ソ連邦の影響下にあった国々やASEANの中で特に経済発展が遅れているCLV(カンボジア・ラオス・ベトナム)それに中央アジアの国々が民主的で健全な自由主義国家になる手助けをする、というものです。ただこれらの地域は米国が「不安定の弧(arc of instability)」と呼ぶ「朝鮮半島から東南アジア、中東などに至るテロの温床と見做しみている地域」にかなりの部分が合致しているようです。これに対して外相は「それらの国々が安定することは我々にとっての繁栄にもつながる」 と前向きにこの問題に取り組む決意を述べられました。これには講義でも明言された「テロの温床は貧困問題である。従って貧困問題を解消する事がテロを減らせる」という外相考えが十分に反映されていると思われます。 ■問われる対中、対露政策 ただ今回の構想は大東亜戦争後始めて日本が国益を踏まえた世界戦略を提示した物と評価されると同時に中華人民共和国(以下、中国)やロシア連邦(以下、ロシア)にとっては警戒すべき戦略であると思われます。理由としては、この戦略がスパイクマン の唱えたリムランド論(The Rimland)をかなり意識して構築されたものと思われるからです。彼の提起した仮説は「リムランドを制するものはユーラシアを制し、ユーラシアを制するものは世界を制す 」というものです。そのためリムランド に囲まれるハートランド である中国やロシアにとっては当然座視できない論理だと思われます。特にソ連時代以来のロシアの支配から脱却を図っている国々を支援する事はロシアの国益に反する事にもなります。それに加え中東政策は小泉政権から引き継がれた「平和と繁栄の回廊 」を継承しており、資源確保のために活発な対外政策をとっている中国との衝突は必至と考えられます。 ■日本の世界戦略に欠かせない台湾の存在 中国が現状で活動対象としているのは主にアフリカ大陸と中南米諸国であるため、すぐに衝突が起こる可能性は少ないと思われます。そうは言っても国家戦略として遂行するには、将来起こる可能性があるリスクも想定し対応策を早急に確立する必要があると思われます。現状(2007年5月7日)では中国政府自体は特にコメントを出していないようですが中国政府要人と太いパイプを持つと言われる阿南惟茂・前駐中国大使が「賢明な外交だとは思いません 」等の外相に批判的な意見を述べている事からも何らかの対抗処置を必ず取ってくると考えられます。今後それに対抗する為には、アジアの民主主義国家であり技術力も高く様々な価値観を共有できる国である台湾を戦略のパートナーとすべきであると思います。またリムランド論の戦略から考えても、万が一台湾が中国に飲み込まれた場合は「繁栄と自由の弧」は完成されないと思われます。 |