アジア太平洋地域の安全と発展に日本が果たすべき役割とは
菱田有修
 今回のドノバン氏の講演は、これまでの内政問題の講演と違い大局を踏まえたもので大きな刺激があった。しかも、質疑応答では活発な意見と誠意ある冷静な回答で内容の濃い講演でもあった。

 ドノバン氏が繰り返し主張したのは、アジア太平洋地域における「安全」と「発展」は表裏一体であるということである。中国・インドなど新興国の経済発展と比例して、アジア太平洋の海上物流が急増している。日米もこの中国・インドの経済発展の恩恵を大いに受けているので、この海上物流はアジア太平洋地域の経済の要といえる。裏を返せば、経済発展には海上物流の安全が欠かせないということである。しかし、最近の中国の軍備拡張、北朝鮮のミサイル発射と核実験、東南アジア圏のテロなど地政学的リスクが出てきた。特に中国に注視すれば、軍事力や内政に係る問題の不透明さがある。そのため同じ価値観を持つ日米が協力して中国を説得して行かねばならないとドノバン氏が述べたことは、日本の外交戦略のヒントといえるだろう。

 中国の不透明さを解決する方法としては「民主化」があろうが、それを決めるのは中国自身である。中国が「民主化」を選ぶのか、それとも反対の「大国主義」へと向かうのかは、日米の外交戦略は、大きく変わってくる。仮に中国がロシアのような資源ナショナリズムによる大国主義を選択すれば、極東アジアは緊迫した状況になることが予想される。当然、日本の防衛構想の見直しが急務とならざるをえない。そこで日本としては、中国に対して正しい選択、すなわち「民主化促進」と「人権尊重」をセットで働きをかける必要があると考える。

 近年のチャイナパワーは、経済的にも政治的にも凄まじい勢いである。高い成長率を背景に、アジアでの影響力を誇示するばかりか資源確保のためアフリカやイランと関係強化するなどなりふりかまわない行動である。こうした行動を牽制するかのように日本は、これまで出遅れていたインドと関係強化が実りはじめてきている。また、オーストラリアでの日米豪戦略対話(※1)では、自由・民主主義・基本的人権といった普遍的価値を共有するに至った。安倍首相もアジア太平洋地域の安全と発展には、日米豪印が連携した「開かれたアジア」を目指している(※2)。以上の点から民主主義と人権を共有する国どうしで中国を包囲しているようである。これに中国がどう対応するかはわからないが、アジア太平洋地域の安全と発展には、中国の民主化は不可避である。日本は中国に正しい選択するよう根気よく説得すべきであると考える。

参考文献
「日本の論点2007」文藝春秋
日印シンポジウム「日本とインド:21世紀のアジアにおけるパートナーとしての課題と責任」(概要)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/india/sympo_0503_gh.html

※1 日米豪戦略対話共同ステートメント(仮訳)http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_aso/australia_06/jua_smt.html
※2 安倍晋三著『美しい国へ』、文春新書、158頁。