平成15年9月13日 第3期愛知政治大学院 9月講座
講師:金融・経済財政政策担当大臣 竹中平蔵 氏
プロフィール
【司会】 初めに、杉浦正健学長より、本日の講師でございます竹中平蔵先生のご紹介を兼ねてご挨拶賜ります。杉浦先生、お願いします。
【杉浦学長】 皆さんこんにちは。8月の大学院に出席できなくて失礼いたしました。選挙モードなものですから、選挙区をくまなく歩き回っておって、予定がいっぱい入って伺えなくて失礼しましたし、残念に思っております。
きょうも本当は、地元を歩いてなければいけないのですが、竹中平蔵先生がおみえになられるというので駆けつけた次第でございます。
竹中先生については、もうご紹介する必要はないですね。小泉総理の知恵袋。抵抗勢力、亀井さんたちは解任しろと言っていますけれども、私は小泉さんは(竹中先生を)解任されないと思いますよ。大変頼りにしておられる先生でございますから、竹中先生を辞めさせるような総理であれば、これは国民の支持を失ってしまうのではないか、こう思っておる次第でございます。
お忙しい日程の中、日本は経済再生の曲がり角で非常に大事な時期ですが、愛知政治大学院は特別だということでお越しいただきました。竹中先生、本当にありがとうございました。(拍手)
愛知政治大学院第3期になるわけですけれども、竹中先生は、第1期も第2期も講師でおみえいただいております。シニア院生の人たちはご存じだと思います。その都度、経済について、それからまた経済に対する物の見方、考え方について、非常に示唆に富んだお話をしていただいております。今、日本経済も少しずつ活気を帯びてきている感じで、私は地元の方々には、「気のせいか東の空が明るくなったかなという感じだ。だけど、この小泉さんの構造改革をあと3年きちっとやらせてもらえれば、東の空から光が差してくる、太陽も昇りかけるかもしれない」というような言い方をしておるわけですが、さて、先生のお話がどうなるか、大変楽しみでございます。
それでは竹中先生、よろしくお願いいたします。(拍手)
---竹中平蔵氏 講演---
皆さんこんにちは。ご紹介いただきました竹中平蔵です。きょう3回目になりますけれども、杉浦先生が学長をしておられる愛知政治大学院にお邪魔しまして、皆さん方に日本の話、未来の話をすることができます。もう大変嬉しく思っています。
まず、この会場に入ってきて、私は皆さんの熱気に圧倒されました。時間は限られておりますけれども、35分間私が話して思い切って問題提起をします。
改めてこの機会に本当にお礼申し上げたいのですが、2年4か月前に、それまで私は慶應大学の教授をしておりましたが、本当に思いがけず小泉総理から「構造改革をどうしてもやらなきゃいけないので手伝ってくれ」というふうに言われて、閣僚の末席に名を連ねた。そのとき実は、杉浦先生は外務副大臣でいらっしゃいました。当時の外務大臣は田中真紀子さんでいらっしゃったわけですけれども、そのもとで杉浦先生も大活躍しておられて、国会等々で一緒に並んで答弁をしながら、杉浦先生からいろんな手ほどきをいただきました。そのご恩返しの一部でもさせていただきたいというふうに思ってここにやってきております。
さあ、それで、経済の話、きょうは「税制の話」というタイトルがついているかもしれませんが、できるだけ幅広く、今、経済は大きく動いておりますし、まさに選挙戦等々で経済政策の在り方が問われていますから、ぜひ問題提起をしたいと思います。
私は、5年ぐらい前に日経新聞社から出された一冊の本のタイトルが最近大変気になっております。これは「ティッピング・ポイント」という本です。グラッドウェルという人が書いた本であります。「ティッピング・ポイント」というのはどういうことかといいますと、日本語であえて訳すと、沸騰点とか臨界点とかという意味になると思います。皆さんも経験あると思いますけども、小さいころ、一生懸命で鉄棒の練習をして、逆上がりをできるようになりたい。1日目は、一生懸命やるけれど全然できません。2日目も全然できません。3日目も全然できません。でも、4日目に急にできるのですね。でも、1日目、2日目、3日目があったから4日目にできるようになった。時間とともに力は確実についているけれども、成果が出るときは一気に出るのです。世の中の変化というのは、それまでたまってきたエネルギーが一気に形となってあらわれる。これが「ティッピングポイント」です。これは恐らく商売においても、いろんなところでそういうことがあると思います。
私は、今、日本の経済がこの第1の「ティッピング・ポイント」に差し掛かったのではないだろうかというふうに思っています。改革を進める。これはいろんなことをやらなければいけません。財政の無駄を切り詰めなければいけない。財政の無駄を切り詰めていったらどうなりますか、その財政の無駄で飯を食っていた人は当然、苦しくなります。だから、最初はそんなに経済は急によくならないです。不良債権を処理しなければいけません。不良債権を抱えていた人たちは、最初は痛みが出ます。だから、改革をやる初期の段階では、どうしてもそんなに経済が急によくなるということはあり得ないわけです。だからこそ総理は、「2年間〜3年間、マイナス成長でもいいからこの改革をやる。最初は厳しいかもしれないけれども、その痛みに耐えてくれ」と言われたわけです。
実は、振り返ってみると、アメリカもイギリスも同じようなことを経験しています。イギリスは、イギリス病というのに1970年代にかかって、もう非常に疲弊した。それを建て直したのがサッチャーです。それまで国営企業が多過ぎた。福祉が重過ぎて税金が重過ぎた。だから疲弊したイギリスを建て直す。小さな政府をつくって規制改革をやる。でも、その最初にやはり痛みが出るわけです。イギリスはどうなりましたか? サッチャーが就任した2年目と3年目は、マイナス成長になった。でもそのときに、「経済失政だ、こんな改革はやめてしまえ」というふうにイギリスがもし思っていたならば、今日のイギリス経済の復活はなかった。それを越えてイギリスはよくなっているのです。アメリカも同じです。アメリカも、1970年代、生産性が低下して、まるで世界のお荷物のように言われた時期があった。レーガンが登場した2年目と3年目に、やはりその痛みが出ました。レーガン登場の2年目と3年目は、実はアメリカの失業率は2桁に達していた。でも、そのときに「この改革をやめてしまえ」とは国民は言わなかった。「とにかく苦しいかもしれないけれども、やはり小さな政府をつくるしかない。規制緩和を続けるしかないんじゃないか」、そういうふうに言ってそれを続けて、アメリカ経済は今日のように蘇っているということだと思います。
そういう意味では、いろんな改革を続けてきた中で、明らかにこの半年、1年ぐらいの間に、日本の経済によい芽が出始めた状況だと私は思っています。幾つかのよい芽があります。
第1の目、不良債権です。バブル崩壊以降、ずっと13年間日本はこの不良債権問題を解決できずにきました。私がちょうど1年前に金融担当大臣の兼務を命ぜられて、それから金融再生プログラムというのをつくりました。もう方針は簡単です。ある意味では私は常識的なことをやっただけですが、まず不良債権を隠すな、銀行は徹底的に不良債権を洗い出して、隠して先延ばしするな、資産査定を厳格化しろというのが第1のポイントです。当たり前のことじゃないでしょうか。2番目、その不良債権を徹底的に処理して、同時に自己資本を充実して経営を安定化させろ。第3番目に、そもそも銀行はちゃんとした収益力を上げなければいけないから、そのガバナンスをきっちりとしろ。ガバナンスがきっちりとしていないから不良債権を隠してしまったのです。ガバナンスがしっかりとしていないから利益を十分に上げられなかった。
その三つをやれというふうに言って、さあその結果、何が起こったか。われわれは総理の命令に基づいて、2年半で不良債権を半分にするという目標を掲げました。実は、政権としてこういった目標を掲げるというのは、非常にリスクがあるわけです。それはそうですよ、達成されなかったら内閣の責任問題です。でもやはり、みずからに責任を課して、銀行にもがんばってもらって、ちょうど1年前に私は不良債権比率を半分にすると目標を掲げました。当時の不良債権比率は8.4%でした。それが、この1年間で不良債権比率は7%まで低下をしました。重要な点は、この変化をあと2年続けていくならば、不良債権比率は間違いなく4%台になるということです。正確に言いますと、昨年の9月期の不良債権比率は8.1%です。ことしの3月期は7.2%です。半年で不良債権比率が0.9%下がった。半年で0.9%下げるというペースを続けていくならば、不良債権比率は間違いなく4%台になる。つまりこのことは、これからまだ不良債権を下げるために大変だけれども、少なくとも13年間解決できなかったこの問題に関して、今の政策を続けていけば間違いなく2年後には出口が見えるぞということが明らかになったということです。だから、銀行の株価は上がったのです。その間に自己資本が不足するようなところが出てきたならば、政府は断固たる措置をとるぞと、りそなの例です。これはもうマーケットに出して政府は不良債権の処理の過程で自己資本が不足するようなことになったら、断固たる措置をとって、絶対に危機を起こさせない。そういう姿勢がメッセージとして伝わったのだと思います。いずれにしても、この不良債権問題が終局に向けて動き始めているというのが第1のポイントです。
第2のポイント、企業収益が大幅に改善しました。昨年度、日本の上場企業(トヨタのような大企業ですね)の利益は、何と7割の増益になりました。その7割増益の上に立って、今年度も10%以上、2桁の増益が見込まれております。この間の規制緩和、税制の改革、さまざまな企業支援の制度等々を背景に、企業ががんばりました。その結果、収益が増えました。こう言うと必ず反論が出ます。「いや、しかしそれはリストラしたからだろう。リストラして首を切られた人もいるだろう。リストラして切られた下請企業もあるだろう」と。そういう面がないとは言いません。しかし、やはり無駄な人員を抱えたままで企業がよくなれるはずないではないですか。だからそこはきちんとその企業の収益を上げていかなければいけない。しかし結果的には、単にコストを削っただけではなくて、日本の企業はこの6年間で損益分岐点を10ポイントぐらい下げています。つまり、いろんなショックに対して立ち向かえるような強い体質を持つようになった。単にコストを削減するというふうに言うけれども、コストを一律に削減したのではなくて、まさに選択と集中の原理に基づいて、必要な研究開発投資は行う。そういう形でしっかりと技術力、競争力を高めながらスリム化をした。だから競争力がついて収益力が高まったということです。
もちろん、この間にいろんな制度を私たちはつくりました。一つのシンボリックな制度でいいますと、皆さんの中に将来、今もそうかもしれない、会社を持っておられるかもしれない。主婦の方が自分で何か会社を起こしたい。学生が自分のアイデアをビジネスにしたい、会社を起こしたい。でも日本には、会社をつくるときには法律の定めがあって、最低資本金の制度というのがあります。会社をつくろうと思ったら、最初に幾らかまとまったお金をためてそれを払い込まなければいけない。会社をつくるには、株式会社は1,000万円、有限会社は300万円。だから、会社と名のつくものをつくろうと思ったら300万円要ります。「会社を起こすんだから、300万ぐらい集めろよ」という意見もあるけれども、でも急に300万学生や主婦の方に集めろというと無理かもしれない。だから、小泉内閣の構造改革の「だれでもチャレンジできるような社会をつくろう」という一環として、ご承知ですよね、1円で会社がつくれます。そういう特例をつくりました。今、その制度を利用して、すでに4,000の会社が立ち上がっています。これはまだ小さな一例だけれども、そういうみんながチャレンジできるようにしようという改革、それがビジネスを押し上げつつある。これからも押し上げていくだろうというふうに思います。
今、申し上げたそうしたことが重なり合って、それが非常にわかりやすい形としてあらわれたのが、実は株価なのだと思います。ことしの4月の末に東京の日経平均株価は7,600円というバブル後の最安値をつけました。これで実は「経済は何をやってるんだ。小泉構造改革は失敗だ」と、もうずいぶんいろんなことを言われました。でも私たちは、このときから言い続けた。「いや、私たちは正しいことをやっているんだ。不良債権を処理して、規制を緩和して、税制を変えて、それで歳出構造を変えて、この先に必ずどこかティッピング・ポイントがあらわれて経済はよくなり始めます」と言い続けていた。幸いにしてそのとおりになりました。4月の末に株価が底値を打ってから、10週間の間に日本の株価は30%上がりました。10週間で株価の30%の上昇。こんなことはかつてあったのかというふうに調べましたら、過去1回だけあった。何と昭和27年にあったそうです。私は実は昭和26年生まれでして、私が1歳のときにあったのだそうであります。つまり、こういうことです。ここ最近の株価の上昇は、高度成長期やバブルのときにもなかったような株価の上昇です。もちろん、株価ですから、これから先も上がったり下がったりします。下がることも当然あり得ます。しかし、とにかくこの4月末に底値を打ってからの動きというのは、やはり日本経済に新しい芽が間違いなく出つつあるということを示唆しているというふうに前向きに受け取るべきなのではないでしょうか。
私は、今回のティッピング・ポイントがあと半年とか1年とか続くと思います。それを踏まえて経済が強くなって、さらに何年か先に第2のティッピング・ポイントが来て経済をさらに強くしていく。そういうシナリオを持つべきだと思います。アメリカだってイギリスだって、結局、疲弊した経済を建て直すのに、トータルで見るとやはり10年ぐらいかかっている。そういう志を私たちは持つべきなのだと思います。
今、総裁選でいろんな方がいろんな議論をしていますけれども、大変申し訳ないが、やはり多くの方々が言っている議論は、非常に基本的なところで間違っていると思います。まず、「今は不況だから財政を支出をしろ」。今、不況でしょうか? 経済が厳しいというのは事実だと思いますよ。それは中国からどんどん入ってきて、それで新しいものにどんどん、どんどん追いつかなければいけなくてみんなすごくしんどい、厳しい状況であるけれども、これをもって「不況だ」と言うのは、これは私は違うと思います。つい先日もGDP統計が出ました。ことしの4−6月期のGDPは何%増加したのでしたっけ? 新聞に出ていましたよね。年率で3.9%成長しているわけです。気がついてみると、これは私もちょっと驚いた。過去、4−6だけではなくてことしの1−3、去年の10−12月、3四半期連続して日本の成長率は先進国の中で一番高い。だから過去約1年とってみると、日本の成長率はどの国よりも高いのです。こういうことを言うと、「地方の実態を知らない」とか、「現実はもっと厳しい」とか、いろんな批判を必ず判で押したように言われるけれども、経済が厳しいのは確かです。しかし、少なくとも相対的に比べて日本が厳しいというのと、好況・不況の波で言うと日本が今、不況の中にあるというのは、これは違うと思います。日本は構造的に弱点もたくさん持っていて、これを克服しなければいけない。しかし、一時的に悪いから財政を拡大して何とかしろという議論は、私は全く論として成り立っていないと思います。
もう一つ、かつても3%ぐらいの成長しているというと、「いや、3年前も3%成長していたじゃないか。それに戻っただけじゃないか」という言い方をする人がいますが、私はこれも違うと思います。2000年に日本の経済は確かに3.何%の成長をしています。しかし、それはなぜ3%成長したのでしょうか。何とそのとき、17兆円の景気対策が実施されています。17兆円の無理やりの追加経済対策をやって、それでむりやり3%成長させたのと、総理は批判を受けながらも、財政は厳しく見ていかなければいけない。そういう無駄な公共事業をやらないで減らすんだと、むしろ公共事業を少し減らしながら3%成長した。つまり、水膨れで3%成長したのと、筋肉質になって3%成長したのとでは、これは明らかに日本経済の内容が違ってきているというふうにわれわれは考えるべきだと思います。
この話をするときりがないのですが、申し上げたいポイントは、やはり日本は間違いなく構造改革を必要としていて、その構造改革というのは時間がかかるけれども、幸いにして、アメリカやイギリスの例よりもむしろ若干早めに日本ではその芽が出てきている。この芽を絶対絶やしてはいけない。総理はこういうふうに言うわけです。「種をまいて水をやっているときは、『まだ芽が出てないじゃないか』という批判を受ける。芽が出始めると、『まだ木になってない』という批判を受ける。木がなると、今度は『まだ実になってない』という批判を受ける」と。しかし、この芽を木に育て、持続的に経済を発展していく。十何年間日本が抱えてきた問題を今度こそ解決する重要なチャンスだ。だからこそ私は小泉総理のもとに構造改革を続けていかなければいけないのだというふうに思っております。
では、その改革の中身について、今後どのような改革がさらに必要になってくるのかということを幾つか申し上げたいと思います。時間が限られていますから、個別の問題は、その後皆さんからぜひいろんな質問を受けたいと思います。
税の話なので、税のことを少し言っておきたいと思うのですが、皆さんの中で、「自分の税金は安過ぎるからもうちょっと高くしてくれ」という方、いらっしゃいますか?
これは絶対いないですね。これは世界中探してもいないです。どこにもいないと思いますよ。税金というのは、一体どういうものなのかということだと思います。税金は、安ければ安いほどいいです。じゃあ、税金はゼロにしていいかというと、ゼロにしていいと思う人いますでしょうか?
やはりそれは困りますね。税金をゼロにしてどうなるかというと、どこかからミサイルが飛んできたときに一体どうするか。これはやはりみんなのために、軍備と言うか、防衛力と言うかはともかくとして、そういうものを持なければいけないでしょう。社会福祉、高年齢になってリタイアした後、年金やいろんなことをサポートしてほしい。そういうことに対してどのように税金で負担するか。これは非常に基本的な問題なわけです。
実は、われわれの民主主義社会そのものが税金から始まったということは皆さんご存じでしょうか。議会制民主主義という言葉がありますけれども、実は、議会制民主主義ともう一つ租税民主主義という言葉があります。租税民主主義というのは、税金を取るときは、絶対国会で決めなければだめだということです。税金を決めるときは国会で承認を得ないとだめです。もちろん地方税は地方の議会になりますけれども。これは実は民主主義の原点です。
非常に簡単に言いますと、昔々、王様が国を支配しているとき、国の財政と王様の個人の財布というのは分けられていなかった。国の財政イコール王様の個人の財布でした。王様は国を支配して権力を持つと必ずいろんなことにお金を使う。無駄遣いをします。無駄遣いするとどうなるかというと、個人の財布は空っぽになる。イコール、国家財政が赤字になります。国家財政が赤字になったら、権力を持っている王様は必ず税金を増やします。古代から、多くの国はこの増税に国民が耐えられなくなって国がつぶれてきています。ローマ帝国の末期を考えればわかります。増税に耐えられなくなってみんな農地を捨てて逃げていく。それで国が滅びる。これを何とかするために実は議会というのは始まったわけです。イギリスでブルジョアジーと言われる中産階級の人たちが王様に言ったわけです。「王様、この国はあなたの国だから、あなたが権力を持っていろいろお決めになるのは結構です。ただし、税金を引き上げるときだけは私たちに相談してください。税金を引き上げるときだけは私たちの許可を得てください」。それを議論するために集まったのが議会です。だから、議会制民主主義というのは、租税民主主義につながります。それだけ税の仕組みというのをどうするかということは、その国家の民主主義の基本に関わっているということです。
そこで、税金というのは安ければ安いほどいい。そうするとみんなあまり払いたくないから、公平な方がいいだろうというふうに考える。公平な税制というのはどういう税制でしょうかということです。どういう税制が公平な税制なのでしょうか。これには、実はよく考えてみると二通りの公平があるということです。
非常にわかりやすいのは、水平的公平という考え方です。横に公平である。例えば、私と杉浦先生がたまたま所得が1,000万円というふうに同じだったとします。同じ所得の人は同じ税金を払いましょう、これは公平ですね。片方1,000万で500万円の税金を払って、片方は1,000万で300万の税金を払っている、これは不公平です。だから、所得が同じ人は同じ税金を払う。これは水平的公平というふうに言います。
もう一つ、垂直的公平というのがあります。垂直的公平というのは、所得の違う人は違う税額を払うようにしましょう。1,000万円所得を稼いでいる人と100万円所得を稼いでいる人が同じ税金だというのは不公平だ。だから、所得の違う人は違う税額を払いましょう。では、どのぐらい違う税金を払ったらいいのかということになると、これは難しい。100人の人がいたら100通りの考え方があるでしょうということです。恐らく心情的には、所得の低い人は「お前は所得が高いんだからもっと払ってくれよ」というふうに思うでしょうし、所得の高い人から見ると「いや、俺はがんばって稼いだんだから、がんばった人が何でそんなにたくさん税金を払わなきゃいけないんだよ」、こういうことになる。この税金の考え方というのは、常にすべての複雑な税問題を考える場合の基礎だということです。
しかし、先ほど言った原点に考えていうと、税金というのは、実はみんなが払うから税金なのですね。みんなで払うことのメリットというのはすごくあります。みんなで払ったら、1人あたりの税率が低くなります。一部の人だけが払うと税率が高くなります。だから、税率の議論のときに必ず出てくるのが、広く薄い税制という考え方です。できるだけみんなで払いましょう。みんなで払うから1人当たりの負担が小さくて済みます。これは税金の基礎だと思います。
垂直的公平の考え方からしますから、所得の高い人にはある程度高い税金は払ってもらうけれども、それでもそれが極端になって、所得の高い人だけが税金を負担するということになると、税率がすごく高くなって、これは経済社会が混乱します。実は、だから消費税なのです。消費税というのは、全員が消費しますから、それに対して一律の税金をかけると広く薄い税制になります。これを今後どのようにしていくかということが、実は先進国の中でも常に大きな話題になっています。
日本の場合、広く薄い税制という観点からすると、これが今、実は非常に歪んでしまいました。税金というのは、やはり取りやすいところからどうしても取ってしまうのですね。その結果、何が起こっているかというと、ご承知のように、今、日本のサラリーマン、給与所得者のうちの約3割は、所得税を1円も払っておりません。すごいと思いませんか? 1円も払ってない人が大体3割ぐらいいるということです。そうすると、残り7割の人が、やや高い税率で税金を払っているということになります。だから、「みんなで払おうじゃないですか」ということになる。しかし、そうすると必ず「弱者に課税するのか」という問題になる。ただ、やはり税金の原点というのは、みんなで払う、みんなでこの社会を支えるということです。そういう観点から、議論として必ず出てくるのは、課税最低限を引き下げようということです。今、夫婦と子ども2人の標準世帯で、非常に大雑把に言って、年収380万円ぐらいまで所得税はゼロです。こんな国は世界中にありません。イギリスは、この課税最低限の水準は100万円強です。100万円所得が超えたら、少しだけど税金を払う。アメリカは大体300万ちょっとぐらいです。300万強を超えたらやはり税金を払う。日本はしかし380万円ぐらいまで所得税を払わなくていい。その結果、日本全体で見ると3割が所得税を払っていない。
こういうふうに言うと、「いや、私は何かいっぱい払ってるぞ」というふうに言うのですが、よく見たら、そういう人の給与明細を見ていただくと、それは所得税ではなくて保険料を払っている。もちろん社会保険と税金をどう区別するかというのは、これはこれでまた難しい問題としてあるわけですが。だから、「所得税が空洞化している」という言い方が最近よくなされるようになりました。
実は、もう一つは大きな問題があって、法人税です。法人税についても、日本中にある法人のうちで、法人税を払っている法人というのは、大体3割ぐらいしかありません。あとの7割は法人税を支払っておりません。これは非常に不思議です。なぜ法人税を支払わないかというと、赤字だからです。法人というのは儲けるために存在しているはずなのに、何でそんなに赤字なのか。これは皆さん知ってますよね。"法人なり"という言葉を聞いたことがあると思いますけれども、例えばまちの八百屋さんとかも、個人の所得にしないで、八百屋さんを有限会社にしてしまって、そこでいろんな経費を落として、利益が表面上、ほとんどゼロとか赤字になるようにして、そういう形で法人をつくって節税のためにやっている例が非常に多いのではないだろうかというふうに言われているわけです。
法人税とか所得税とかといいますと、どんなに公平に課税しようとしても、そういう問題が必ず生じてくる。だから、消費なら消費、そういう一律の基準にかけて幅広く、広く薄く課税をしていく方が、結局はみんなの公平になるのではないだろうかというのが、1980年代以降、多くの先進国で基本的にとられている考え方だと思います。
しかし、これは基本的にはバランスの問題です。すべて消費税でよいということではない。ただ、世界中を見てみますと、ヨーロッパの国では、この消費税のウエートが非常に高くて、最低でも18%から20%ぐらいの消費税率。消費税5%の国などというのはヨーロッパにはありません。唯一日本とアメリカが比較的所得税のウエートが高いのです。日本とアメリカが所得税のウエートが高くて、アメリカには売上税というのがありますけれども、全体で見るとウエートはそんなに高くありません。今後、高齢化社会とともに、ますます財政に対する需要が出てくるわけですけれども、それに対して広く薄く、一部の人が負担するのではなくて、できるだけみんなで負担し合おう、そうすることによって税率を低くしていこう、その方向をいかに制度設計していくかということが大変重要になっていきます。特にこれから年金等社会福祉関係の負担が大きくなってきますから、その年金の大改革が来年行われます。この年金の改革に向けて、またどのように制度設計していくかということが、郵政とともに非常に重要なポイントになってきます。
あと、議論すべき問題としては、地方分権の話があります。総理は、「民間でできることは民間で」というふうに言いました。その象徴が郵政であるならば、「地方でできることは地方で」ということの象徴が例の三位一体の改革ということになります。この三位一体の改革というのは、今まで日本の制度というのは、われわれは税金を払っていますけれども、このうちの3分の2は国にいきます。残り3分の1が地方にいきます。しかし、全体にお金を使う主体について見ると、国は3分の1ぐらいのウエートで、3分の2が地方です。税金とお金を使うのと、つまり歳入と歳出のバランスが逆転しているのです。したがって何が起こるかというと、その分、国から地方にお金が流れる仕組みが存在しているということです。これの大きな問題としては実は補助金です。国が使い道を決めて、「こういう形でお金を使いなさい」ということで地方にいく。地方はそのまま使う。しかし、お金を集めて決定する主体と実際に使う主体が違うから、そこでさまざまな無駄、非効率が生じているというのが、今の地方財政の問題です。これを根本的に改めようというのが、構造改革の非常に重要な中身になっています。
具体的に言うと、今まで国から地方に流れていた補助金を、今後3年間で4兆円削減します。補助金を削減するというと、地方から見ると、国からお金が来なくなって困るのではないかと思うかもしれないけれども、そうではないです。そもそも国に納められていた税金を、最初から地方に納めるようにしよう。つまり、国税から地方税への税源移譲を行う。
同時に、もう一つ重要なテーマがあります。それは、東京、大阪、名古屋のように所得水準の高いところと地方の所得水準の低いところでは、やはりある程度格差が生じてしまうから、その格差を埋めるような形で、これは財政調整のための仕組み、地方交付税の改革を行う。だから補助金・助成金の削減、税源の移譲、そして交付税改革、これが三位一体、その三つを同時に行うという大改革をこれから行わけなけばいけません。
小泉政権は今、とにかく改革の新しい芽が出始めた段階で、郵政民営化、三位一体の改革、年金改革というより高い次元の本格的な改革に入っていかなければいけない段階になりました。
実は、ここで最後に申し上げておきたいのは、こういう改革をどのようにしたらよいのかということで、評論家と称する人たちがいろんな意見を言っているのですが、これから経済財政諮問会議等で総理と一緒に議論するわけですけれども、実際に『あの人のこの考えはなかなかいいから使えるな』と、そういう使える考え方がほとんどないということです。これは驚くべきことです。みんな部分的な批判はいっぱいするのですが、「じゃあどうしたらいいか」ということに対する対案というか、全体の考え方が、この社会にほとんどないのです。これはやはり学者も怠慢だし、ジャーナリズムも怠慢だし、まだまだ社会に知恵がないということだと思います。私たちは、やはりこの社会に知恵がないということを謙虚に反省しなければいけないと思います。社会に知恵がないということの一つのこれは象徴だと思うのですが、不良債権の例で言いますと、ちゃんと把握して、それをちゃんと処理していかなければいけませんでしょう、これは当たり前のルールですよ。ところが、この当たり前のルール、具体的に言うと、銀行は不良債権の額をちゃんと調べて公表しなければいけないということが、法律で義務づけられたのは、実は、ほんの4年前です。4年前まで私たちの社会は、そういう仕組みすら持っていなかったのです。不良債権をどのように把握するか、不良債権を放っておくとどうなるかということに対して、この社会全体で根本的に知恵が欠けていたのだと思います。私は皆さんがこういう形でいろんな政策問題に興味を持って、若いころからしっかりと勉強するということの必要性、意味は、まさにこの点にあると思います。この社会が蓄積してきたものは、一方で素晴らしいものがあるけれども、新しい問題に対応するための知恵というのは、実は驚くほどない。これも残念だけれども私たちは認めなければいけない事実だと思います。ぜひそういう問題意識を持っていろんなことを勉強していただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)